新規事業の撤退基準は、着手前に決める
2026.08.19
シリーズ|新規事業を見極める4つのステップ
このシリーズの前提
弊社代表は、新規事業とマーケティングのコンサルティングに15年間携わり、クライアント様の新規事業立ち上げ・検証・改善をご支援してきました。
現在はその知見をベースに、自社事業としてIZNM(イザナミ)を立ち上げ、AIをフル活用しながらテスト展開と検証を続けています。
IZNMは、QRを起点に、人・店・イベントなどリアルな場で生まれた接点を記録していくIDプラットフォームです。企画、仮説整理、調査、開発、運用、検証まで、AIを活用しながら自社で実際に進めています。
実際に新規事業をAIと一緒に動かしてみると、AIを積極的に使うべきところと、人が判断した方がいいところがはっきり分かれます。 また、AIの提案や実装には、見落としや認識違い、仕様上の抜けが生じることもあり、使い方には注意が必要です。
一方で、自分だけでは気づけなかった論点を指摘してくれたり、調査・整理・試作・分析のスピードを大きく上げてくれる場面もあります。
こうしたことは、AIについて外から語るだけではなく、実際に新規事業の企画・開発・運用・検証まで手を動かして初めて分かる部分だと感じています。
本シリーズでは、15年間のクライアント様へのご支援で培ってきた方法論に、AIをフル活用して自社事業IZNMを実際に動かして得た実践知を重ね、新規事業を見極める流れを4つのステップに整理します。
STEP 01 仮説 → STEP 02 撤退基準 → STEP 03 顧客インタビュー → STEP 04 投資判断
この記事は、STEP 02「撤退基準」です。 どの条件なら進み、どの条件なら見直すのかを、着手前に決める考え方を整理します。
撤退基準は、着手前に決めないと機能しません。
苦しくなってから決めようとすると、基準はどうしても自分に都合のいいものになります。
IZNM(イザナミ)は当初、収益化を前提に始めた事業ではなかったため、地域メディア期には撤退基準を置いていませんでした。
前提|地域への思いから、自分起点で始めた事業です
私は、新規事業とマーケティングのコンサルティングを15年やってきました。
クライアント様の新規事業では、着手前に撤退基準を置くことを基本の工程としてご一緒してきました。キックオフで「どうなったら見直すのか」「どの条件を下回ったら次の投資へ進まないのか」を決めるのは、私が最も重視してきた工程です。
IZNMでは、私はそれを実施しませんでした。
IZNMは当初、マネタイズを前提に始めた事業ではありませんでした。
茅ヶ崎に移住して、この街に何か貢献できないかという思いから、自分が「あったらいいな」と思う地域サービスを、最低限の投資で形にするところから始めています。
そのため地域メディア期には、収益事業としての検証期限やKPI、撤退基準、マネタイズの仮説を設定していませんでした。
これは、IZNMを軽く考えていたということではありません。むしろ、この街に役立つものを作りたいという思いが先にあり、事業として何をもって継続・見直しを判断するかという設計を置いていなかったということです。
その後、地域メディアからアプリへ展開する中で、地域への思いだけでなく、もっと仮説検証をしっかり行い、マネタイズも見据えてサービス全体を見直す必要があると考えるようになりました。
現在のIZNMは、自分本位の事業としてではなく、カスタマーに寄り添いながら、継続的に拡張できる事業にしていくことを前提に取り組んでいます。
2年、やめられませんでした
最初のIZNMは、茅ヶ崎の地域メディアでした。
地域メディアを始めて半年ほど経った頃から、「この運営方法をこのまま続けるのは難しいかもしれない」と感じるようになりました。
理由は、取材先を探し、実際に取材し、記事を書き、公開し、継続的に情報を発信するところまでを、私一人で担っていたからです。地域に役立つ情報を届けたいという思いは変わりませんでしたが、運用負荷が徐々に大きくなっていました。
当時は収益化を前提にしていなかったため、「売上が伸びないから見直そう」と考えたわけではありません。
また、検証期限やKPI、継続・見直しを判断する基準も設定していませんでした。 そのため、「半年時点でこのKPIに届かなければ見直す」といった明確な判断ポイントがあったわけでもありません。
クライアント様の案件では、着手時に「いつ」「何を測り」「どの水準なら次へ進むか」を一緒に決めます。地域メディア期のIZNMでは、その設計を置いていませんでした。
そこで考えるようになったのが、私一人が情報を集めて発信し続けるのではなく、地域の方々自身が直接投稿し、地域の情報を発信できる場にできないかということでした。
そこで次に考えたのが、地域情報の発信に加えて、地域の人自身も情報を投稿・交換できる掲示板を持たせることでした。それが次のアプリにつながっています。
そうした違和感があっても、すぐにはやめませんでした。結果として、地域メディアは2年続けています。
やめられなかった理由
一番大きいのは、次の仮説が見えていなかったことです。
「これは違うかもしれない」と思っても、「では何が正しいのか」が分からないからです。
そうすると、人はいまやっているものを改善しようとします。
それまでに使った時間もお金もあります。記事もあり、人間関係もあり、少しずつ反応も出ている。
だからゼロではない。
この「ゼロではない」が、一番危険です。
完全に失敗しているなら、むしろやめやすい。一番やめにくいのは、少し反応があるのに、事業としては伸びていない状態です。
当時の私には、その状態を切るための数字がありませんでした。
そして、立ち止まって判断するきっかけをつくってくれる第三者もいませんでした。
15年間、クライアント様へのご支援では、事前に合意した基準を一緒に確認し、次に進むのか、いったん見直すのかを整理する役割を担ってきました。自分の事業では、その役割がありませんでした。
アプリ期では、事業としての見直しを意識するようになりました
アプリは約1年で次の形へ移っています。
この時期に変わったのは、「一度作り直したから判断が早くなった」ということではありません。
地域メディアからアプリへ展開した経験を通じて、もっと仮説検証をしっかり行い、マネタイズも見据えながら、サービス全体を見直せるのではないかと考えるようになったことです。
自分が作りたいものを改善し続けるだけではなく、誰にどんな価値があり、実際に使われるのか、そして事業として継続できるのかまで含めて考える必要があると思うようになりました。
アプリ期では、地域情報の発信に加えて、地域の人が投稿・交換できる掲示板機能を持たせました。
ただ、そこで分かった大きなことは、提供している情報や掲示板に価値があっても、利用するまでの摩擦が大きければ広がらないということでした。
新しいアプリを知ってもらい、インストールしてもらい、登録して、使い方まで理解してもらう。その入口が重かったのです。
さらに、この段階からはマネタイズも含めて事業として成立させることを意識するようになり、地域情報と掲示板を中心にしたサービス全体を改めて見直しました。その結果、約1年で次の形へ移っています。
そして2026年に、サービスの前提そのものをもう一度見直しました。地域情報を届けることや掲示板で情報をやり取りすることから離れ、人・店・イベントなどとのリアルな接点そのものを記録する現在のWebアプリへ変えました。
ここで初めて、QRをスマートフォンの標準カメラで読み取ってCONNECTし、その足跡を残すという発想を採用しています。接点を記録する機能は、アプリ期にはありませんでした。
そして先月、同じことをしました
そして、ここからがこの記事で一番書きたいことです。
現在のIZNMは、AIを使って自分で開発しています。5月に大きなアップデートを予定していました。
そのときAIに計画を立てさせると、35件のリスクを並べたリストが出てきました。
その1つが、これです。
スコープ膨張による全体ローンチ遅延|影響度:高
遅れることは、着手前から文書に書いてありました。
書いたのはAIです。少なくともこの「スコープを広げるとリリースが遅れる」という指摘については、結果的にそのとおりになりました。
それでも私は、当初「あとでいい」としていた範囲を、「リリース前に完成させる」に変えました。全部そろった状態で出したかったからです。
想定作業量は66〜80時間まで膨らみました。
そして、書かれていたとおりに遅れました。
5月1日の予定が、5月下旬になりました。
この遅延を、タスク管理の側から書いた記事もあります。増え続けるタスクをどう止めたか。
何を失ったか
数週間の遅れで、実際に起きたことです。
販売の機会を逃し、いつ出るか言えないため、営業の予定も置けなくなりました。
そして、協力を約束してくれていた飲食店とのアポを、仕切り直しにしました。
友人のお店でした。
対外的に約束を守れませんでした。せっかくの期待を踏みにじってしまったと、いまでも思っています。
このとき、AIに対する不信感がものすごく増幅しました。行き場のない怒りをAIに向けてしまいそうでした。
でも、リスクのリストには最初から書いてあったのです。読んだうえで範囲を広げると決めたのは私です。
結局これは自分の責任だと、そのとき腹に落ちました。
そして構造としても、はっきりしていました。
一人でやると、判断する人と実行する人が同じ人物になります。 範囲を広げたいのも自分で、それを止めるべきなのも自分。この構図では、まず止まりません。
クライアント様の案件で私が担ってきたのは、まさにこうした判断を一緒に整理する役割でした。自分の事業には、それがありませんでした。
気づく速さは上がった。決める速さは上がっていない
3回を並べてみると、こうなります。
メディアは、違和感からやめるまでに1年以上かかりました。
アプリは、気づくのは早くなって、1年で移りました。
そして5月は、着手前に文書で警告されていたのに、遅らせました。
つまり、経験を積むことで上がったのは「気づく速さ」だけでした。
決める速さは、まったく上がっていませんでした。
これは意志の問題でも、経験不足の問題でもありません。構造の問題です。
気づくこと自体は、経験や情報があれば早くなります。15年間、新規事業をご支援してきた経験があれば、なおさら違和感には気づきやすくなります。
でも決めるには、判断する時点と基準を先に置き、その基準を自分とは別の視点から一緒に確認してくれる人が必要です。それがなければ、何度経験しても同じところで判断が止まりやすくなります。
知識は、判断の速さを上げてくれませんでした。
仮説そのものの書き方は、こちらの記事にまとめました。
いまなら、どう決めるか
ここまで書いてきた撤退基準の考え方自体は、私が独立して新規事業をご支援するようになった15年前から、大きく変わっていません。
変わったのは、判断材料を集めるまでの速さです。
これまで6ヶ月以上かけていた仮説検証を、いまはAIを活用して、その準備と反復を短縮することで、最短1ヶ月まで圧縮できるようになりました。
弊社の新規事業見極めサービスでは、仮説検証を最短1ヶ月で一度判断できるように設計しています。
AIが撤退を決めるわけではありません。判断するのは人です。AIは、判断するための材料を早く集め、整理し、次の検証を回すために使います。
検証は2段階です。
まず最短1ヶ月で、基本の仮説を検証します。
ここで見るのは、本当にその課題を持っている人がいるか、実際に使うか、そして自分からもう一度使うかです。
具体的には、まず対象者10人程度に話を聞いて、3人以上が同じ問題を、具体的な過去の経験として話せるか。
次に、ヒアリングで課題が確認できた想定顧客に簡単なプロトタイプを実際に使ってもらい、こちらから再利用を促さなくても、自発的にもう一度使う人がいるかを確認します。
ここまでを1ヶ月で確認します。
この基本検証を通ったからといって、すぐに本開発や大きな投資へ進むわけではありません。ここでのGoは、「次の支払い検証へ進む」Goです。
その次に、2ヶ月かけて「実際にお金を払うか」を検証します。
見るのは、「欲しい」「安いと思う」といった発言ではありません。申し込み、予約、購入、着手金、有償テストなど、実際にお金が動く行動です。
好意的な反応は、基準にしません
「面白い」「便利そう」「使ってみたい」は、撤退の判断に使いません。
1ヶ月の基本検証では、課題と利用行動を見る。そこを通ったものだけ、次の2ヶ月で支払いを見る。
この2つを一緒にしないようにしています。
さらに、着手前に2つの判断ポイントを決めます。
1ヶ月後に、基本検証を通過する条件。
その後、2ヶ月の支払い検証を終えた時点で、事業化へ進む条件。
当時のIZNMでこの区切りを置いていたら、2年間ずっと同じ形を改善し続けることはなかったと思います。
なぜ好意的な反応だけでは検証にならないのか。自分自身が数えてしまった話は、顧客インタビューの記事に書きました。
基準の置き方の例
事業の型ごとに、3つ挙げます。
企業向けの業務サービスなら
最初の1ヶ月では、対象企業10社に聞いて、少なくとも3社で同じ課題が具体的に確認できるか、簡単なテストやPoCに実際に参加してもらえるかを見ます。
ここを通ったら、次の2ヶ月で有償テストに進みます。「払ってもいい」という意向ではなく、実際に契約や支払いが発生するかで判断します。
基本検証の段階で課題も利用行動も弱ければ、有償テストには進まず、対象顧客か課題設定を変えて、もう一度検証します。
店舗向けのサービスなら
最初の1ヶ月は、無料の説明ではなく、実際の店舗で使ってもらいます。
10店舗に導入して、継続して使う店が2店舗以下なら、その仕様のまま支払い検証には進みません。
一定の継続利用が確認できたものだけ、次の2ヶ月で有料化を試します。判定に使うのは、「月1,000円なら安いと言った店舗数」ではなく、実際に料金を払って使い続けた店舗数です。
個人向けのWebサービスなら
最初の1ヶ月は、初回の登録数ではなく、再利用を見る期間にします。
30人登録しても1回しか使われなければ弱い。逆に10人でも、そのうち半分が自発的に繰り返し使っているなら、次の支払い検証へ進む理由があります。
その次の2ヶ月で、有料プランや購入など、実際の支払い行動を見ます。
新規事業の初期では、絶対数より、少人数でも異常に強く使う人が存在するかをまず1ヶ月で確認し、そのあとにお金で確かめる。この順番を重視しています。
着手前に、誰と合意するか
一番重要なのは、担当者の方だけで完結させないことです。
プロジェクトの継続・見直しや追加投資を判断できる方まで含めて、あらかじめ合意しておく必要があります。
キックオフでは、「成功条件は何ですか」だけでなく、「どうなったらこの案を見直すのか」「どの条件を下回ったら次の投資へ進まないのか」まで決めます。
今回の進め方なら、合意する基準も2つです。1ヶ月後に基本検証を通過する条件と、そこを通過した場合に行う2ヶ月の支払い検証を通過する条件です。
この考え方にご懸念が出ることもあります。「始める前から失敗を考えたくない」「やってみないと分からない」というご意見です。
ただ、やってみないと分からないからこそ、事前に判断基準を置いておく必要があります。
私はこう説明します。
これは撤退を決めるための数字ではなく、追加投資をする資格を決める数字です。
最初の300万円を使う。条件を超えれば次の1,000万円を使う。超えなければ止める。
これはネガティブな話ではなく、投資の管理です。
一方で、撤退基準について合意しないまま始める案件は、後から判断が難しくなりやすいため、慎重に進める必要があります。どんな結果が出ても「もう少しやれば」と言えてしまうからです。
基準がないと、何が起きるか
撤退基準がないと、失敗したプロジェクトが続くのではありません。
プロジェクトが失敗しているかどうか自体が、分からなくなります。
数字が悪ければUIを直す。それでも伸びなければ機能を追加する。少し反応が出れば、もう少し続ける。
こうして投資が積み上がります。
そして投資した金額が増えるほど、やめにくくなります。
だから撤退基準は、苦しくなってから作ってはいけません。
一番冷静な着手前に決めておく。
そして、その基準を自分とは別の視点から一緒に確認してくれる相手を置いておく。
15年、クライアント様の新規事業でこの設計をご一緒してきて、自分の事業ではその役割を置かなかった私自身の結論です。
まとめ
- 撤退基準は着手前に決める。後から決めると必ず甘くなる
- 一番やめにくいのは、完全な失敗ではなく「ゼロではない」状態
- 経験を積んで上がるのは気づく速さだけ。決める速さは、基準と、それを自分とは別の視点から一緒に確認してくれる第三者がいて初めて上がる
「AIでどこまでできるのか」を、
実際に手を動かした立場からお話ししています。
事業計画、開発会社の選定、公開、最初の数字まで。判断が必要な場面すべてに伴走します。
30分・オンライン・無料



